トランプ大統領が各国に関する関税を次々と見直し、8月1日に発動すると通告。日本に対しては25%の関税を課すと宣言したことが大きな話題となっています。
不動産業界に関連する内容としては、6月3日、トランプ大統領は鉄鋼とアルミニウムの輸入関税を従来の 25%から50%へ倍増する大統領宣言を発しました。その後の対応は流動的であるため、どのような形で落ち着くのかは不明ながら建設・製造業全体にコストショックを与える内容であることは間違いありません。
建設コストへの直撃
スウェーデン系ゼネコンのスカンスカが 6月3日に開いたウェビナーでは、今回の追加関税で商業プロジェクトの資材コストが最大 8%上昇 する可能性が示されました。実例として 3億7500万ドル規模の病院建設では、鉄鋼・アルミ由来部材だけで 2200 万ドル の追加負担が発生する試算が紹介されています。(参考:Construction Dive)鉄鋼価格は年初来上昇が続いているのに加え、鋼管や金属デッキなど派生製品の値上げ通知も相次ぎ、契約済み案件でも再見積もりが避けられない状況ということです。
住宅部門への波及と一戸当たりの負担増
住宅建築に目を向けると、オープンハウス・グループの今年4月時点の試算は「旧25%関税だけで 新築 1 戸あたり約1.2万ドル のコスト増」とされていました。今回の倍増措置では、鉄鋼・アルミの使用比率が高い多階建て集合住宅や高耐久仕様の一戸建てで特に影響が大きく、テキサス州の業界団体は「低価格帯を中心に 7500〜2.2 万ドル の追加負担が見込まれる」と警告しています。
資材高騰は、建築費用だけでなく着工の先送りを招き、供給不足が価格を押し上げるという二段階のインフレ圧力となって表れると考えられます。
サプライチェーンと工期リスク
50%関税は価格だけでなく材料の調達リードタイムを延ばします。メーカーは、英国・メキシコ経由の免税枠確保や第三国への生産移管を検討中ということですが、短期的には物流と工程の両面で混乱が避けられません。国際法律事務所クロウェルは、固定価格契約が多い大型インフラ案件で コスト超過や遅延を巡る紛争が増えると指摘し、価格スライド条項や材料代替条項の整備を推奨しています。(参考:Crowell)
不動産投資家への具体的インパクト
建築コストの上昇は、① 新築投資の利回り圧縮、② Fix&Flip(安く仕入れた物件をリフォームなどで価値を高めて短期間で売却する)物件のリフォームコスト増による転売益の縮小、③ サプライチェーン遅延による機会損失 という三つの形で投資家を直撃します。もっとも、ロサンゼルスのような需給が逼迫した市場では、コスト高がそのまま販売価格や家賃に転嫁される傾向が強く、既存物件の価値を押し上げる効果も期待できます。その結果、中古物件や完成済み物件への資金シフトが進み、戸建ての流動性はむしろ高まる可能性があります。