ロサンゼルス中心部の再開発を象徴するプロジェクトが、オリンピック大通りとヒル通りの角地で進む「Olympic + Hill」です。
ロサンゼルス中心部の再開発を象徴するプロジェクト
カナダ系ディベロッパーのオンニ・グループが手がけ、設計はIBIグループが担当します。計画は当初60階・約232メートルでしたが、その後の設計調整を経て地上54階・約593フィート(約181メートル)に縮小されました。戸数は賃貸685戸で、スタジオからペントハウスまで多様なプランを揃えます。地下7層の基礎と大容量の駐車施設を内包しつつ、低層外周は住戸が駐車場を“巻く”ライナー配置とし、通りから駐車場が直接露出しないよう景観に配慮しています。1階には商業テナント区画も組み込み、歩行者の回遊を促します。
着工は2022年で、構造は2024年に上棟し、2025年内の供用開始に向け内装と外構の仕上げが進みます。立地はクリプト・ドットコム・アリーナやLAライブに近く、以前は平面駐車場だった区画の高度利用となります。都心の住宅不足が深刻化する中、600戸超の賃貸供給はダウンタウンの居住人口の底上げに資すると見込まれます。併せて、オンニは近隣の旧ロサンゼルス・タイムズ本社跡でも高層計画を進めており、近隣でも同規模のタワーが連鎖的に計画されています。単独プロジェクトの成否にとどまらず、まとまった“住む人の集積”が商業と公共空間の質を引き上げ、都心の24時間化を後押しする効果が期待されます。
ダウンタウンの居住地図を書き換える“核”に
本件で都市計画上の論点となったのが、オリンピック大通りの車線拡幅(ストリート・デディケーション)です。市は長らく民間開発の許可条件として周辺道路のスポット拡幅を課してきましたが、当該地点でも約12フィート(約3.6メートル)の車道拡幅が実施され、実測で道路全幅は約22メートル規模になりました。一方で歩道は市が理想とする片側約15フィート(約4.6メートル)に満たず、巨大ビルと広い車道の組み合わせが歩行環境を損ねるとの批判が出ました。この議論は州レベルの制度改正につながり、2024年成立の新法は新規住宅開発に対し車道拡幅を義務付けることを禁じる方向を明確化しました。ただし「Olympic + Hill」は法改正前に承認済みで、旧基準に基づく拡幅が適用されています。
投資家目線では、当計画のポイントは三つに要約できます。第一に、ダウンタウンの“アリーナ近接×高層賃貸”という立地特性が、イベント需要や若年層の都心回帰と親和的であることです。第二に、駐車施設の視覚的な隠蔽や1階商業の導入など、ポスト自動車中心のデザインに寄せた設計姿勢です。第三に、同時並行で周辺に複数の大型住宅が控え、住む人の絶対量が一体的に増えることで、賃貸市場の厚みとテナントミックスの柔軟性が増すことです。供給増に伴う賃料の調整圧力はあり得ますが、685戸規模の旗艦タワーはダウンタウンの居住地図を書き換える“核”になり得ます。