ロサンゼルスの住宅価格が上昇し続ける根本要因は、住宅需要に対して供給が慢性的に不足していることです。人口や世帯数の増加に対し、新規住宅建設が追いついていないため、市場では買い手・借り手が常に住宅を奪い合う状態が続いています。過去10年間でロサンゼルス郡の人口は約3%増加し、毎年数万人規模の新たな住民が流入しました。しかし建設戸数は大幅に不足しているのが現実です。
需要が増加し続けるロサンゼルス
第二次大戦後、ロサンゼルスは全米や世界から人々が集まる大都市圏となり、移民も含め長期にわたり人口増加が続きました。特に1960~2000年代にかけて出生率の高さや移民流入で世帯数が激増し、それに見合う住宅を整備できなかった歴史があります。
近年はカリフォルニア州全体で人口流出が報じられるものの、ロサンゼルス都市圏には依然として新規の雇用機会を求める国内外からの人口流入があります。また若い世代が世帯を持つことで新たな住宅需要が生まれています。
一方供給面では、土地規制やコストの問題から住宅建設ペースが需要に追いつかない状態が固定化しています。
土地利用規制と建設コストの高さ
ロサンゼルスの住宅供給を抑制している大きな要因が、厳しい土地利用規制と高い建設コストです。ロサンゼルス市および周辺都市では長年にわたり戸建て低層住宅中心の都市計画が採用され、多くの住宅地が低密度(シングルファミリーゾーニング)に固定されています。そのため需要が高まっても簡単に高層集合住宅を建てられず、土地が有効活用されにくい構造になっています。
加えて地域住民による開発反対(いわゆるNIMBY)も根強く、用途変更や高密度開発には時間とコストがかかります。こうした適切にゾーニングされた住宅用地が不足した状況が、住宅建設を阻む一因です。
さらに開発プロセスも長期化・不透明化しがちです。各種許認可に時間がかかり、環境規制(CEQA法に基づく環境影響評価など)や住民公聴会などでプロジェクトが遅延・縮小するケースが多くあります。開発業者にとっては計画通りに供給できる保証がなく、リスクとコストが増大します。この長く高コストで不確実な開発プロセスも住宅供給が増えない原因です。
建設コストそのものも全米で最も高い水準です。土地代はもちろん、人件費もカリフォルニアの労働規制下で高額、資材費も輸送費などで割高です。また耐震・省エネなどカリフォルニア固有の建築基準が厳しく、建設費用を押し上げています。
さらに近年の関税政策やサプライチェーン混乱で資材価格が高騰したこともロサンゼルスの建設コストを上昇させました。こうした要因が重なり、ロサンゼルスでは新規住宅の供給量が需要に追いつかない構造が続いています。
雇用市場と都市の魅力による高い住宅需要
ロサンゼルスはエンターテインメント(ハリウッド)、テクノロジー、国際貿易(港湾)、観光など多様な産業を擁する巨大雇用市場です。常に新たな仕事の機会があり、全米や海外から優秀な人材が集ります。
仕事を求める人々が集まり、所得水準も比較的高いため、多少住宅価格が上がっても購入できる層が存在します。特にエンタメ業界の成功者やテック業界の高給エンジニアなど、富裕層の住宅購入ニーズも旺盛です。彼らが高値でも都心部や高級住宅地の物件を買い支えるため、平均価格が押し上げられる面もあります。
またロサンゼルスの魅力として、年間を通じて温暖で晴天率が高い気候やビーチ・山などの自然環境、多文化が融合したライフスタイルなどが挙げられます。これら非経済的な魅力も相まって、「ロサンゼルスに住みたい」という人は後を絶ちません。
コロナ禍以降はリモートワーク普及で他州に移る人もいたものの、依然として世界的なエンターテインメント都市としてのブランド力があり、海外から移住や不動産投資の対象として選ばれることも多いです。例えば中国や中東の富裕層がロサンゼルスの高級住宅をセカンドハウスや投資目的で購入するケースも過去に話題となりました。
さらに住宅の投資対象化も需要側要因です。近年、低金利環境や株高を背景に、不動産が資産運用の一環として注目され、大手投資会社やREITが住宅物件を大量購入する動きも見られました。ロサンゼルスも例外ではなく、賃貸目的で戸建て物件を一括買いする投資ファンドが存在します。こうした投資需要は実需とは別に市場に参入するため、物件価格をさらに押し上げる要因となります。
移民の影響と住宅需要の底堅さ
ロサンゼルスは歴史的に移民の街です。中南米やアジアから数多くの移民が暮らし、彼らがコミュニティを形成してきました。移民は高級住宅地ばかりでなく都市郊外で家族を築き、新たな住宅需要を生み出す存在です。特にラテン系コミュニティでは世帯拡大に伴い郊外に住宅を購入する動きが強く、都市圏全体の住宅需要を下支えしています。
また移民2世代目・3世代目となると所得向上に伴いより良い住宅を求めるようになるため、世代を超えた住宅需要の連鎖が起きています。 ただ近年、カリフォルニアの生活費高騰により移民流入は鈍化し、一部は他州へ転出する傾向もあります。それでもロサンゼルスには多様な産業があるため新規移民の受け皿が存在し、完全に人口が減少に転じるような状況ではありません(実際2020年代初頭にロサンゼルス郡の人口減が報じられましたが、これはコロナ禍の一時的現象や統計方法の変化も影響しています)。移民ネットワークがしっかり根付いている限り、人の出入りはありつつも一定数の新規需要が生まれ続けると考えられます。