アメリカで不動産を購入しようとすると、日本との制度の違いに驚く方が多いです。なかでも「エスクロー制度」や「手付金(デポジット)」の扱い方は、日本の常識とは大きく異なります。今回は、日米の不動産取引の流れとお金の管理方法、契約解除ルールの違いを整理し、初めての海外不動産購入でも失敗しないためのポイントを解説します。
アメリカのエスクロー制度
アメリカの不動産取引では、売買当事者から中立的な第三者であるエスクロー会社に金銭や書類を預け、契約条件がすべて満たされるまで安全に管理します。たとえばカリフォルニア州では、買主が契約締結後に手付金(デポジット)をエスクローへ送金し、物件調査や融資承認など条件が整った段階で決済が進み、残代金の支払いと同時に所有権移転が行われます。日本ではこうした制度がなく、買主・売主・仲介業者・司法書士が銀行に集まり、残代金の振込・登記・鍵の受け渡しを一度に行うのが一般的です。アメリカは「第三者預託で段階的」、日本は「当事者直接で一括決済」という構造です。
日本の手付金は契約成立の証拠であり、同時に「解約手付」として機能します。買主が解約する場合は手付放棄、売主が解約する場合は倍返しが必要です。金額は物件価格の5~10%程度が多く、契約締結時に現金または即時決済手段で売主に直接支払われ、最終決済時に残代金へ充当されます。
これに対しアメリカでは、買主が支払うデポジットはエスクロー会社に入り、金額は1~3%程度が一般的です。契約書には「Contingency(停止条件)」が設定されており、検査や融資承認など期限内に解除すればデポジットは全額返金されます。逆に条件をクリアし契約確定後に買主都合でキャンセルすると、デポジットは違約金として売主に渡ります。米国では売主が無断で契約解除することはほぼできず、契約履行請求や損害賠償を求められるのが普通です。
特にコマーシャル物件の場合は、実際にエスクローを開いて初めて開示される情報もあるため、まず話を進めてから詳細条件を詰め、折り合わない場合はキャンセルをすることも珍しくありません。この場合、デポジットは返却されます。
契約から決済の流れも異なる
契約から決済までの流れも大きく異なります。日本は申込→契約・手付金支払い→ローン手続き→決済・引渡しをおおむね1カ月ほどで完了し、その場に全員が立ち会います。
アメリカはオファー提出後、エスクローをオープンし、数週間のContingency期間に検査・融資・評価を済ませ、条件を外した時点で契約確定。買主は残代金とローン資金をエスクローへ送金し、郡の登記所への電子申請後に売主へ支払いが行われます。現金取引なら2週間ほどでクロージングすることも可能です。
初心者が混乱しやすいのは、まず「第三者預託への不安」です。エスクロー会社は州の免許を持つ信頼機関であり、預託金は厳格に管理されています。次に「手付金と頭金の混同」です。アメリカでは契約時のデポジットと決済時の頭金(Down Payment)は別であり、最終的に合算されて購入代金になります。またアメリカはContingency期限を過ぎるとデポジットが固定化され、返金できなくなる場合があるため、期日管理が重要です。さらに「日本の倍返しルール」は米国にはなく、売主が勝手に契約解除はできません。
日本人が失敗しないためには、信頼できる現地エージェントや専門家を付けること、契約書条項を細かく理解すること、送金時の詐欺メールに注意することが不可欠です。また、アメリカではオファー時点でデポジット額や条件提示が求められるため、資金計画を事前に整えておく必要があります。インスペクションや融資特約など買主を守る条項は積極的に活用し、納得できない場合は期限内に解除や交渉を行うことが大切です。
総じて、日本は「当事者間で一括決済・手付金は解約ペナルティ重視」、アメリカは「エスクロー管理下・デポジットは条件付き返金可能」といった違いがあります。制度の趣旨を理解して正しく利用すれば、安全かつ柔軟な取引が可能です。不明点は専門家に確認し、制度の違いを味方につけることで海外不動産取引でもリスクを減らせます。