2025年10月に成立したカリフォルニア州法AB 628は、住宅賃貸における「居住性(habitability)」の基準を一段引き上げる改正です。施行は2026年1月1日で、以後に新たに締結、更新、または改定される賃貸契約について、貸主は各ユニットに動作する冷蔵庫と調理用コンロ(ストーブ)を備え付け、適切な状態を維持する責任を負います。
冷蔵庫とコンロの備え付けを義務化
従来、南カリフォルニアの一部では冷蔵庫がない賃貸住宅が珍しくなく、入居者が中古品を自費で調達する負担が指摘されてきました。AB 628はこうした“設備ギャップ”を州レベルで解消し、最低限の住環境を法的に担保する狙いがあります。
実務上のポイントは三つです。第一に、対象は施行日以降に動く契約であることです(既存契約を直ちに改定する義務までは課していません)。第二に、テナント持込を希望する場合の扱いが法文と実務解説で整理されていることです。入居者が自前の冷蔵庫を使いたいと申し出るケースでは、責任範囲や保守負担を契約条項で明確にする余地があります。第三に、立法過程で議論された「10年ごとの新品交換義務」条項が最終法から削除された点で、現行では“動作品の設置・維持”が義務のコアとなります。
オーナー側に求められる初動は、全ユニットの設備棚卸し、不足分の調達・設置スケジュールの確定、老朽機の予防交換の予算化、リース雛形(アプライアンス条項、持込時の責任分界)のアップデートです。冷蔵庫はエネルギー効率等級によって運転コストが変わり、修理費と償却の兼ね合いで更新判断が分かれます。大量導入の場合は機種の統一で保守を簡素化でき、倉庫在庫やサプライヤーの納期確保も重要です。また、コンロはガス・電気の別で設置要件や安全規格が異なるため、建物の既存インフラと将来の脱炭素・電化方針を踏まえ、更新時に電化へ舵を切る選択も検討に値します。
入居者側にとっては、入居初日に生活必需の家電が揃っていること自体が利便性の大幅な向上となります。フードセキュリティ(食の安全性)の観点でも、保存・調理設備の標準化は公共政策上の意義が大きいといえます。市場への影響としては、初期導入コストを賃料に転嫁する動きが一部で出る可能性がある一方、設備標準化により空室期間の短縮やクレーム減少につながる面もあります。
重要なのは、法の趣旨を踏まえた“最小限で確実な実装”であり、過剰設備で無理に差別化を狙うよりも、保守容易性・耐久性・安全性を軸にしたラインナップで全棟を均質化することです。2026年の施行まで残された時間は限られています。年内に実地棚卸しと発注計画を確定し、契約書のアップデートと現地導線(搬入・設置・廃家電の処理)をセットで回すことで、混乱なく新ルールへ移行していきたいと考えます。